あおねこ物語

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刑事訴訟法まとめ その3

覚せい剤使用の疑いがある被疑者が違法な逮捕により逮捕された(警察官は、被疑者逮捕の際に令状を呈示せず、逮捕後においても呈示をしなかった。また、捜査報告書には逮捕状を呈示した旨の事実を記載し、公判においても同趣旨の供述を行った)。任意に提出した尿の鑑定から覚せい剤が検出されたため、尿の鑑定書を根拠に被疑者宅の捜索・押収令状が発付され、この捜索・押収の結果、被疑者宅から覚せい剤が発見された。他方、被疑者には別の窃盗を理由とする捜索・押収令状が適法に発付されており、覚せい剤の捜索・押収令状と同時に執行された。被疑者宅から発見された覚せい剤に証拠能力が認められるか。

 

本件において、被疑者は令状の呈示なく逮捕されている。この逮捕が違法と認められる場合に、被疑者宅から発見された覚せい剤が違法な手続によって収集した証拠と扱われたときは、証拠能力が否定されることになる。そこで、逮捕後に捜査機関が収集した各証拠(採尿・採尿の鑑定書・覚せい剤)が違法収集証拠といえるかが問題となる。

 

違法収集証拠排除法則は、①捜査の適正手続の保障、②違法な捜査の防止、③司法の廉潔性維持などの観点から認められる。しかし、だからといって軽微な違法があった場合にまで証拠能力を否定することは、刑事訴訟法の理念のひとつである真実発見が害されてしまう恐れがある。

 

そこで、上記の3つの趣旨と真実発見の調和という観点から、①令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、②これを証拠として許容することが将来の違法捜査の抑制の見地から相当でないと認められる場合に限りその証拠能力が否定されると解する。

 

本件において、被疑者の逮捕は令状の呈示なくしてなされており、また、逮捕後においても呈示はされていない。よって、逮捕状の強制執行(刑訴201Ⅱ・73Ⅲ)があったとはいえない。そして、警察官は捜査報告書に令状の呈示を行った旨記載し、公判においても同趣旨の供述をしている。これらの事実から見てとれる警察官の遵法精神を欠く態度に鑑みれば、本件逮捕手続きの違法の程度は、令状主義の精神を没却するような重大な違法があったといえる。また、このような逮捕手続により得られた証拠の証拠能力を許容することは、将来の違法捜査の抑制の見地からも相当とは言えない。

 

もっとも、違法な手続があった場合に、それ以降に発見されたすべての証拠の証拠能力を否定することは、証拠資料が著しく制限されてしまう。しかし他方で、違法な手続により直接収集された証拠(第一次証拠)の証拠能力のみを否定し、第一次証拠によって発見された証拠(第二次証拠)の証拠能力を肯定することは、違法収集証拠排除法則の趣旨を没却することになる。したがって、違法な捜査手続と密接な関連性を有する証拠に限り証拠能力を否定すべきである。

 

これを本件の各証拠について見るに、採尿は違法な逮捕の後になされており、密接な関連性を有しているといえる。また、採尿の鑑定書にも同様の評価をすることがいえるから、この2点については証拠能力は否定される。覚せい剤については、窃盗事件に関する捜索押収令状と同時に執行された点を考慮すれば、その収集に重大な違法があったということはできない。したがって、覚せい剤の証拠能力は肯定される。

 

以上より、被疑者宅から発見された覚せい剤の証拠能力は肯定される。